Monday, April 14, 2025

言の葉の燈火――清少納言と『枕草子』の光景(平安中期)

言の葉の燈火――清少納言と『枕草子』の光景(平安中期)

平安の夜が長く、月が静かに都を照らす頃、一条天皇の中宮・定子のもとに、ひとりの才女が仕えていた。清少納言。和歌に通じ、漢詩を嗜み、鮮やかな言葉を紡ぐ彼女は、平安文学にまばゆい光を残した。彼女が記した『枕草子』は、自然の美しさや人々のしぐさ、宮廷の暮らしを、機知と優しさで包み込みながら描く随筆である。

「春はあけぼの」と詠んだ第一段は、季節と時間の織りなす情景を、五感で受け止めた珠玉の詞で始まる。愛らしいものを並べた「うつくしきもの」、世の不条理を鋭くえぐった「ありがたきもの」や「にくきもの」、そして定子との気品に満ちたやりとりを描いた「香炉峰の雪」。どの章段にも、清少納言の澄んだまなざしと、失われゆくものへの切なさがにじむ。

時は藤原道長の権勢が伸び、定子の家系が衰えゆく波乱の中。だが、彼女の言葉は千年を越えて今も輝き、読む者の胸に、静かな燈火をともす。

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