Tuesday, April 22, 2025

炎の学舎に風が吹く――1968年・大学という名の戦場

炎の学舎に風が吹く――1968年・大学という名の戦場

1968年、日本の大学は静かに燃えていた。高度経済成長の光の裏に陰影を浮かべるように、東京大学日本大学法政大学慶應義塾大学――名だたる学府が突如として叛乱の砦と化した。教室はバリケードに封鎖され、黒板はビラで覆われ、講義の言葉は石と化して投げられた。若者たちは問うていた。国家とは何か、学問とは誰のものか、そして自由とはどこにあるのか。

東大医学部ではインターン制度を巡る不満がやがて全学を巻き込み、自治と制度をめぐる全面対決に発展。最前線に立ったのは、東大全共闘の象徴である山本義隆である。日大では学費の不正流用が暴かれ、怒れる学生が全共闘を組織し、繰り返し校舎を占拠した。法政大学では学生自身の中に分断が走り、政治セクト同士の排除が始まっていた。慶應では、体制批判がヒッピー文化の中から生まれ、大麻密輸事件さえもが時代の風景として重なっていった。

その思想的背後には吉本隆明の『共同幻想論』が横たわり、国家と個人、幻想と現実の境界線を問い直す理論として広く受容された。そして作家・小田実は世界を歩きながら、ソ連キューバチェコベトナムを巡り、「自由」と「支配」の在り処を見つめた。彼は語る。「俺は過去ではなく、未来へ向けて行動しているのだ」と。

この年、大学はもはや知を学ぶ場所ではなかった。知を問う場所、そして知が火を放つ場所となったのだ。燃えたのは若さだけではない。思想そのものが、大学という名の炉で鍛えられていた。

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