Saturday, August 1, 2026

言葉が息を始めた時代 二葉亭四迷と言文一致 1887年から1909年

言葉が息を始めた時代 二葉亭四迷と言文一致 1887年から1909年 明治20年、二葉亭四迷は坪内逍遥の勧めを受け、小説浮雲を発表した。漢文調や古風な雅文が中心だった時代に、彼は人が実際に語る調子を文章へ移し、感情の揺れや心の迷いを生きた言葉で描こうとした。浮雲の主人公、内海文三は、職を失い、恋にも出世競争にも敗れながら、自尊心と現実の間で立ちすくむ青年である。その優柔不断さや孤独は、封建的な秩序が崩れ、近代社会へ移りつつあった明治の知識人の不安を映している。 二葉亭の言文一致は、単に会話をそのまま書き写す試みではなかった。人物の心理、語り手の視線、場面の空気を、読者が身近に感じられる文章で表現する文学上の改革だった。後に本人は余が言文一致の由来で、三遊亭円朝の落語を参考にするよう坪内逍遥から助言された経緯を回想している。古い文章語を捨て、日常語として定着した言葉を選ぼうとした姿勢も語られている。 浮雲は日本最初の言文一致小説の一つとされるが、その文体は完全な口語ではなく、古い表現と新しい話し言葉が交錯している。この不均衡こそ、近代日本語が生まれる途中の苦闘を示している。二葉亭四迷は、物語を書くと同時に、日本人が考え、悩み、語るための新しい文章そのものを作り出したのである。

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