エコマテリアル研究の現在と今後の課題
エコマテリアルとは、材料開発における新しい考え方のことである。従来の材料開発は、経済効率や大量生産の便宜を重視し、素材を組み合わせて要求される機能を達成することを目標としてきた。しかし、エコマテリアルは環境保護の視点に立ち、根本的に見直すものである。製品ができたところから環境負荷を考えるのではなく、材料の開発段階から製造過程も含めて環境との共生を図り、さらには製品のリサイクル率を高めることを目指す。
アメリカとヨーロッパの取り組み
材料が環境に及ぼす影響に関する研究は、1970年代にアメリカで始まった。この時期は、ペットボトルや発泡スチロールの使い捨て容器の増加とエネルギー消費の関係が主な課題となっていた。アメリカ環境保護庁(EPA)は1974年に「資源と環境プロファイル分析」をまとめた。その後、1980年代にはヨーロッパでも環境問題への関心が高まり、環境負荷の少ない製品開発を進めるエコプロダクツ、グリーンプロダクツなどの概念が生まれた。この流れは日本にも影響を与え、エコマーク商品など環境への配慮をアピールする商品群が登場したが、環境負荷を評価する基準や定義が明確でなかったために、生産技術や材料開発の再検討を促すには至らなかった。
エコマテリアルの定義と研究プロジェクト
エコマテリアルという呼称は、未踏科学技術研究協会のレアメタル研究会が1990年に生み出したものである。1995年、同協会のエコマテリアル研究会は、エコマテリアルのコンセプトを「人類が生存し続ける間、途絶えることがない持続可能なもの」とし、廃棄物を出さず、資源の枯渇に配慮した材料の開発を具体的に提案する報告書をまとめた。
また、1993年度からは科学技術庁の科学技術振興調整費による産学官協同の研究を開始。この「エコマテリアル開発プロジェクト」は、科学技術庁、環境庁、通産省、農水省の4省庁傘下の研究機関と理化学研究所、東京大学、筑波大学など6大学が参加し、新日本製鐵、三菱マテリアルなど企業6社が協力している。
研究テーマと具体的な成果
同プロジェクトの主要な研究テーマは以下の3つである。
1. 物質循環を考慮した材料の設計
2. 自然界にある素材の機能向上および、未開拓機能を生かす技術開発
3. 開発した材料の評価指標の確立
例えば、科学技術庁無機材質研究所では、風化した火山灰の中に含まれる粘土(スメクタイト)から、発泡スチロールに代わる新材料の研究が進められている。年間4600万トンがスクラップとなっている鉄鋼についても、添加元素を減らす研究が進められている。農水省森林総合研究所は、高温高圧の水蒸気で木材を圧縮成型し、プラスチック並の精度を持たせる技術を開発している。
未来の展望と課題
エコマテリアル研究の背景には、資源は無尽蔵ではないという認識がある。例えば、チタンの生産には大量のエネルギーを必要とし、世界中の埋蔵量をわずか27年で使い尽くしてしまう可能性がある。そのため、効率的なリサイクルシステムの確立が不可欠であり、材料開発の研究と同時に、リサイクルシステムの確立が求められる。また、地球温暖化の元凶とされる二酸化炭素など、環境負荷の高い物質の発生を食い止めることもエコマテリアル研究の視野に入れなければならない。
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