銀座を守った背中――鈴木龍馬と銀座警察の遺影(1950〜2002年)
戦後の東京、夜の銀座には「もう一つの警察」があった。正式な組織でもなければ、法の後ろ盾もない。しかし人々はその裁きを信じ、尊敬すら抱いた。男の名は高橋輝男――住吉会住吉一家大日本興行の初代会長。芸者やホステス、銀座のクラブオーナーたちは彼を「銀座警察」と呼んだ。トラブルが起きても、警察に頼らず「高橋さんに言えば済む」と口をそろえた。義理を重んじ、カタギには決して迷惑をかけぬ任侠道。銀座の秩序は、彼の背中が守っていた。
その高橋に若い頃から仕えた男がいた。名を鈴木龍馬という。やがて彼は住吉会の会長補佐、大日本興行の最高顧問にまで昇りつめる。だがその道は平坦ではなかった。二十三の若さで銃撃戦を経験し、数々の修羅場を潜り抜け、任侠の理を我が身に刻んでいった。人呼んで「高橋二世」。だが、その真意は彼自身しか知らぬ。
2001年、組織内で起きた赤坂の事務所銃撃事件。複数の幹部が負傷し、住吉一家は激しく揺れた。鈴木はこの事態の責任を一身に背負い、破門処分を受ける。そしてその翌年――2002年10月21日、自宅の浴室で、彼は自ら柳刃包丁を腹に突き立てた。壮絶な割腹自殺。高橋譲りの義理、そして責任を果たす覚悟。その潔さに、極道社会すら言葉を失った。
高橋輝男が作り上げた「銀座警察」という幻の秩序。鈴木龍馬はその遺志を継ぎ、最後までその道を貫いた。夜の街に生きた者たちの中に、今なお彼らの名は語られる。法では裁けぬ闇に秩序を与えた男たち。その背中は、銀座の灯とともに静かに揺れている。
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