闇の印刷機――北朝鮮偽札戦略の肖像 1990年代から2000年代前半
1990年代の経済崩壊と孤立のなか、北朝鮮は自らの延命と外貨獲得のため、静かに印刷機を回しはじめた。製造されたのは、米財務省が「スーパーノート」と呼んだ、偽造とは信じがたい精度をもつ100ドル紙幣。この紙幣は通常の市販技術では到達しえない水準にあり、国家機関が関与していなければ不可能だった。背後にあるのは、中央党と保衛省、そして「39号室」と呼ばれる秘密部門。彼らは外交官や国営企業を用いて世界中に偽札を流通させ、中国のトライアドや日本の暴力団との連携も浮かび上がる。特にマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアは、資金洗浄の中継地として名を残した。並行して製造された偽Viagraや偽たばことあわせ、北朝鮮は国家ぐるみで「犯罪経済」の構築を進めていたのである。これは単なる偽造事件で
はない。ドル札という国家信用の象徴を通じて、北朝鮮は世界秩序に無言の挑戦を仕掛けた。偽札は紙である以上に、国家の意図が刻まれた「闇の声明文」だったのだ。
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