Saturday, November 29, 2025

沈黙と逮捕のあいだで揺れる声たち――光文社争議の深層 1970-1975年

沈黙と逮捕のあいだで揺れる声たち――光文社争議の深層 1970-1975年

1970年代半ばの日本は、高度経済成長の終わりが影を落とし、社会そのものが大きな揺れの中にあった。石油危機後の停滞、不況の波、学生運動の余韻、過激派事件の増加、公害訴訟や労働争議の全国的な拡大。社会の緊張が日常生活にまで滲み込み、個人の生き方や働き方にも不安がまとわりついていた。出版界も例外ではなく、業績低迷と職場疲弊が進行し、編集者や営業社員は長時間労働の中で疲れ切っていた。このような背景の中で、光文社争議は1970年代初頭から発火し、1975年にかけて複雑に絡まり合いながら激化していった。

光文社では、第一組合が会社の人事政策や労働条件に危機感を抱き、改善を求めて闘争を展開した。これに対して会社側は第二組合を支援し、職場には二重の組合構造が形成される。さらに会社はガードマンを常駐させ、組合活動の監視や排除を進めたため、社屋内部には見えない境界線が引かれ、編集部から制作、営業までのあらゆる場所に緊張が張り詰めた。職場の誰もが、普通の日常と政治化した空気のあいだを泳ぐしかなくなり、仲間同士の関係すら軋みを帯びていった。

争議が最も激しくなったのは、1974-75年にかけてである。ガードマンによる組合員への暴行事件が起き、その一方で第一組合側や支援労組員が相次いで逮捕された。ガードマンがかみそりで組合員を切りつけた事件は不起訴となり、逆に組合側十九名が刑事事件として扱われるという、あまりに偏った力学が露わになっていく。会社が警察権力を争議に持ち込み、第一組合を力で封じようとした象徴的な出来事であった。出版という文化産業に似つかわしくない暴力と権力の影が、社内にはっきりと落ちていった。

こうした空気の中で、社員たちが口にした言葉には、それぞれの立場と疲労がそのまま反映されていた。総務の社員は、ガードマンによる暴行事件を「個人的な恨み」と切り出し、争議全体から切り離そうとする。役員付の社員は、支援者の増加による業務妨害への苛立ちを口にし、どうして自分たちが巻き込まれなければならないのかと訴える。小説宝石関係者は、仲間の大量逮捕に異常さを感じながらも、それを押し返す力を持てないことに苦い思いを抱え、「同じ職場で働いた人が、こんなふうに逮捕されていくなんて」と揺れる声で語る。対照的に「妥当な逮捕だ」と言い切る社員もいて、争議の正邪よりも、自分の仕事と生活を守ることが優先される切実な現実が浮かび上がる。

この時代の光文社争議は、労働問題の象徴として語られると同時に、普通の人間が混乱の時代をどう生き抜くかという物語でもあった。怒り、恐れ、諦め、慎重さ、無関心といった人間的な揺れが、職場という小さな共同体を大きく揺さぶった。個々の社員の声は、1975年という裂け目の時代を生きる人々の息づかいそのものであり、その緊張と痛みは、今読んでもなお色あせることなく胸に迫ってくるのである。

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