Wednesday, August 13, 2025

環境 緑の港町が描く未来―北海道苫小牧市工業地帯環境改善計画 1996年6月

環境 緑の港町が描く未来―北海道苫小牧市工業地帯環境改善計画 1996年6月
1990年代半ば、日本経済はバブル崩壊後の構造転換期にあり、地方都市もまた産業基盤の再構築と環境負荷低減という二重の課題に直面していた。北海道苫小牧市は、港湾都市として発展してきたが、その成長の裏側で、大型タンカーの往来や製紙・石油化学工場からの排水、ばい煙が環境に影響を与えていた。特に苫小牧港周辺は、工業活動と海域環境のせめぎ合いが顕著な地域であり、港湾機能を維持しつつ自然環境を守ることが急務とされた。

市は国の環境保全補助制度を活用し、企業との協定による緑地帯の拡充に着手した。工場群の外周に植栽を増やし、防風林・防音林として機能させることで、大気中の粉じんや騒音の拡散を抑える狙いだ。また港湾近接部の水質改善策として、製紙工場や石油タンク群からの排水処理を高度化し、生物化学的酸素要求量(BOD)や化学的酸素要求量(COD)を低減する施設更新が進められた。

技術的には、排水処理における活性汚泥法の高度化、膜分離活性汚泥法(MBR)の導入検討、さらに油水分離槽の改良などが挙げられる。これにより、港湾内の水質は漁業資源やレクリエーション利用にも耐えうる水準を目指す。また、港湾施設では荷役時の粉じん飛散防止に密閉型搬送システムやスプレー散水設備が導入され、港湾作業と環境負荷低減の両立が図られた。

こうした取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、地域の産業と自然の共生モデルを構築する試みでもあった。苫小牧市は、北の港町としての経済的役割を保ちながら、環境先進都市としての新たなアイデンティティを形成しつつあったのである。

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