### サイバー連結する世界 ― すべての物がハッキング可能に(二〇〇〇年代後半から二〇一〇年代)
一九九〇年代、インターネットの普及はもっぱらPCを中心に広がっていた。しかし二〇〇〇年代に入ると、ブロードバンド回線の整備と携帯電話の急速な進化によって、人々は常時ネットに接続する習慣を身につけていく。さらに二〇〇七年に登場したiPhoneは、電話機を「持ち歩く小型コンピュータ」へと変貌させ、スマートデバイスの時代を切り開いた。これを契機に、ネット接続は個人の生活の基盤そのものとなり、仕事や娯楽の在り方を一変させた。
こうした背景を受け、二〇一〇年前後には接続対象が急速に拡大する。冷蔵庫やエアコンといった家電、監視カメラや各種センサー、さらに自動車や産業機械にまでインターネットは浸透していった。工場のセンサー群は温度や圧力を検知して中央システムに送り、都市のインフラは遠隔制御され、病院の医療機器はネット経由で稼働状況を管理されるようになった。これが「IoT(モノのインターネット)」と呼ばれる潮流であり、社会を効率化し利便性を高める大きな可能性として歓迎された。
しかし、便利さは同時に新たな危機も呼び込んだ。従来の標的はPCやサーバーに限られていたが、今や家庭の監視カメラ、医療機器、さらには自動車までもが攻撃の対象となり得る。二〇一六年に発生した「Miraiボットネット攻撃」では、世界中のIoT機器が感染し、数百万台が遠隔操作されて大規模なDDoS攻撃に利用された。これは単なる技術的トラブルではなく、社会のインフラ全体が人質に取られ得る現実を突きつけた事件だった。
二〇〇〇年代後半から二〇一〇年代初頭は、効率化と利便性を追い求める社会が、同時にかつてない脆弱性を抱え込んだ時代であった。「すべての物がハッキング可能に」という言葉は決して誇張ではなく、日常生活と産業基盤を守るセキュリティの在り方を根底から問い直す必然の課題となったのである。
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