Thursday, June 5, 2025

病院のゴミが金になる時代――1990年代医療廃棄物ビジネスの胎動(1994年)

病院のゴミが金になる時代――1990年代医療廃棄物ビジネスの胎動(1994年)

1990年代初頭、バブル崩壊の混乱の中で医療廃棄物処理は新たな市場として注目された。1989年に厚生省が発表したガイドラインと1992年の廃棄物処理法の改正により、注射針や血の付いたガーゼなどが「感染性廃棄物」として特別管理産業廃棄物に分類されたことで、従来は安価に扱われていた医療廃棄物の処理が一気に高コスト化した。

この市場に参入したのは、不動産、タクシー、土木業など多業種に及んだ。全国産業廃棄物連合会の渡辺昇部会長は「いままでタダ同然だった処理が10倍以上になる」と語り、急速な利権化の実態を示した。1994年時点では、1500社以上が感染性廃棄物処理の許可を得ていたが、うち従来の業者は1割にすぎない。

しかし、市場拡大の裏では問題も深刻化した。競争激化により1キロあたり50円から1000円と処理費用に大きなばらつきが生じ、ダンピングが横行。安価な処理を売りにする業者の中には、法改正前と変わらないずさんな処理方法を続ける者もおり、感染リスクや不法投棄の懸念が再燃した。

新市場の登場は「ビジネス」としては成功だったが、「安全」と「倫理」は必ずしも確保されていなかった。制度の枠組みが不完全なまま利潤が先行すれば、かえって医療と社会の信頼を損なう。病院のゴミが金になる時代は始まったが、その代償は誰が負うのか。1994年、すでにその問いは突きつけられていた。

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