希少金属の行方 ―― 携帯電話リサイクルと見えぬ環境負荷(2006年9月)
2006年当時、日本は世界でも有数の携帯電話普及国であり、多機能・多様化が進む中で年間数千万台の機種変更が行われていた。しかし、それに伴う使用済み端末のリサイクル率は著しく低く、貴重な資源である希少金属が廃棄物として扱われていた。金、パラジウム、タンタルなど、いずれも電子部品に不可欠な素材であるが、当時の日本では回収率が20%にも届かないとされていた。
こうした金属は、使用済み端末とともに一般ゴミとして焼却されたり、不適切な処理を経て埋め立てられることも多く、環境中に拡散していた。都市鉱山(アーバンマイン)と称されるように、日本の都市には大量の希少金属が眠っていたが、その多くが再利用されることなく失われていたのが現実だった。
一方で、これらの金属の採掘地であるアフリカや南米、東南アジアでは、鉱山開発による森林破壊や水質汚染が進行していた。特にコンゴ民主共和国などでは、タンタル採掘が紛争資金と結びつき、「コンフリクト・ミネラル(紛争鉱物)」の問題も顕在化していた。すなわち、日本国内で回収されない希少金属の裏には、他国の環境破壊と人道的問題が存在していたのである。
回収システムの未整備、消費者の意識不足、メーカーや小売店の回収体制の不徹底――これらが重なり、日本の都市から「消える金属」は、ただの資源ロスにとどまらず、地球規模の環境破壊へとつながっていた。2000年代の中頃、日本社会はようやく「使い捨て社会」の限界に気づき始めていたが、都市鉱山の本格活用は、その後の大きな課題として残されたままだった。
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