Sunday, June 29, 2025

「女たちのアングラ舞台裏」―1971年・反体制の息吹の中で

「女たちのアングラ舞台裏」―1971年・反体制の息吹の中で

1970年代初頭、東京・新宿を中心に盛り上がったアングラ演劇は、政治と芸術が真正面から交錯する稀有な時代の産物だった。安保闘争が敗北に終わり、大学封鎖や全共闘の崩壊が若者たちの挫折感を深めていく中で、文化的な爆発口として演劇は再定義された。その最前線にいたのが、「状況劇場(紅テント)」や「早稲田小劇場」などと並ぶ、「劇団黒テント」である。

黒テントの舞台では、絶叫や即興演出、裸体表現といった非日常の手法が積極的に導入されていた。目的は明快だった。日常という制度そのものを破壊し、身体という最も生々しい表現媒体によって、抑圧と欺瞞を打ち壊すこと。しかしこの手法は、特に女性俳優たちにとっては苛烈な負荷を伴った。「日々裸で舞台に立つことで、自分の中の境界線が消えていった」とある女優は語る。寒さも羞恥も忘れ、肉体が誰のものなのか分からなくなる感覚。それは自己の解放であると同時に、自己の喪失でもあった。

「男たちは思想を語るが、私たちは体で舞台に立っている」――これは、当時の演劇界におけるジェンダー不均衡の象徴的なセリフだった。男性の演出家が理念を語り、女性はその理念を身体で具現化することを求められる。体を張ることが"表現"とされ、それが時に演出上の強要や暴力と隣り合わせになる場面もあった。だが女性たちは、それでもなお「表現者」としての誇りを持ち、舞台に立ち続けた。

黒テントの生活は、芸術家らしさよりもむしろ労働者の集団生活に近かった。旅公演が中心の彼らにとって、住居はバス、食事は納豆と白米、睡眠は雑魚寝というのが当たり前だった。演出家に怒鳴られて泣いた夜、皆でひと鍋を囲んで笑い合ったと振り返る元団員の声には、演劇を通じた共同体の温もりと苦しみが交錯している。

1970年代初頭の日本は、まだフェミニズムが社会運動として立ち上がる前夜であり、演劇の世界における女性の発言は制限されがちだった。しかし、黒テントの舞台裏で女性たちが経験したこと――それは、自身の肉体が搾取の対象であるか、あるいは解放の手段であるかを日々突きつけられる現場だった。だからこそ彼女たちの言葉や姿勢は、単なる舞台芸術の一部に留まらず、現代のジェンダー問題や表現の倫理を考える上でも深い示唆を与えてくれる。

この証言群は、演劇の記録である以上に、女性の自己表現の闘いの記録である。身体を通じて何を語るか。誰のために立つのか。その答えを、彼女たちは毎夜、舞台上で血肉に刻みながら模索していたのだ。

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