制裁下の裏口資金調達術――中国丹東の北朝鮮企業群(2016年)
2016年、国連安保理は北朝鮮の4度目の核実験と弾道ミサイル発射を受け、かつてない規模の対北制裁決議(第2270号)を採択した。石炭・鉄鉱石・金などの鉱物資源の輸出規制、武器の禁輸に加え、金融機関との取引にも厳しい制限が課された。だが、こうした制裁の包囲網を掻い潜る北朝鮮の「抜け道」のひとつが、中国・遼寧省の国境都市「丹東」だった。
丹東は鴨緑江を挟んで北朝鮮・新義州と向かい合う街であり、古くから北朝鮮との経済・物流・情報の交流拠点として機能してきた。2016年時点でも、表向きは中国企業の名前を持つが、実質的には北朝鮮国営企業の出先である「ペーパーカンパニー」が数十軒単位でオフィスビルに入居していた。例えば、「丹東洪祥貿易有限公司」や「丹東市冠能貿易有限公司」といった企業群がそうした存在であり、社名はあくまで"中国風"だが、その実態は極めてあいまいで、職員の姿は見えず、実業の形跡もない。
あるビルでは廃墟同然のフロアに、使われていない机と椅子、そしてドアの外に残された「朝鮮貿易会社」の札のみが確認され、記者は「実体なき経済拠点」の不気味さを報告している。これは単なる事務所ではなく、国連制裁の目を逃れながら金融送金や密輸ルートの中継点として利用される疑いが強い。
また、同年には米国財務省が中国籍の複数企業を制裁対象に追加。丹東を拠点とする「丹東鴻祥実業発展有限公司」が「北朝鮮の武器貿易・核開発に関与した」としてブラックリストに載った。このとき、代表者がすぐに身を隠したことから、国家レベルの庇護や隠蔽体制があったと見られている。
このように、丹東の北朝鮮系企業群は、外交と制裁の網の目を突く「実態のない商社群」として機能しており、単なる経済活動の皮をかぶった"国家戦略的地下経済"の一部であった。経済封鎖に追い詰められた北朝鮮が、情報・資金・物資の調達をいかに執拗に継続していたかを物語る、静かで深い現場の証言である。
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