【一人称】「ゴミで金を稼ぐ時代――私が見た医療廃棄物の裏側」―1994年
あの頃、医療廃棄物ってやつは、まさに"金になるゴミ"でしたよ。バブルが崩壊して、うちの本業も先行きが怪しくなってた時期に、「感染性廃棄物」って言葉が急に出てきたんです。注射針とか、血のついたガーゼなんかが、法律で特別扱いされるようになって、それまで1キロ50円くらいだった処理費が、いきなり1000円なんて数字に跳ね上がったんですから。
こりゃ美味しいぞって思いましたね。焼却炉とトラックさえあれば始められるし、行政も当時は規制強化に夢中で、現場までは目が行き届いてなかった。うちも見よう見まねで処理業に手を出したんです。でも、ちゃんと法律通りに処理してたら、とてもじゃないけど儲けなんか出ない。高温で燃やすだの、フィルター交換だのって、金がかかりすぎるんですよ。
そのうち周りを見渡せば、50円とかで請け負ってる業者がゴロゴロ出てきた。どうやってそんな値段でできるのかって? 簡単に言えば、まともに処理してないんです。山奥に捨てたり、昔ながらの雑な焼却炉で燃やしたり。マニフェスト制度もまだ不十分だったし、追跡なんてほとんどできない。帳簿さえ整えておけば誰も文句を言わなかった。
あるとき、近所の農家の人が「最近、畑の野菜が変なんだよな」ってこぼしてきて、さすがに胸が痛くなりました。でも、行政に言っても「調査しておきます」って返されるだけ。責任の所在がふわっとしてて、誰も本気で動こうとしなかった。
今思えば、あの頃やってたことは完全に環境犯罪でした。でも、当時の空気はそんな感じじゃなかったんです。「新しいビジネス」って言われて、金の匂いにみんな群がってた。法律が市場を作って、でもその管理が追いつかなくて、現場は荒れ放題。あのとき私もその一部だった。今になって、ようやく重さがわかってきた気がします。
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