### 「焼却炉行政を問う――住民不在の計画が残すもの」―1994年
長野県松本市では、隣接する塩尻市との共同による新しいごみ焼却炉の建設計画が進められていたが、地元住民の強い反発により暗礁に乗り上げていた。問題の核心は、「周辺住民の声を無視して計画が一方的に進められた」ことにある。現地ではすでに古い焼却施設が稼働しており、環境汚染や悪臭、騒音などの被害が顕在化していた。こうした中での新設計画は、住民にとって「二重の環境負荷」と映った。
特に、旧施設の煙突から出る排煙にはダイオキシン類の検出も報告されており、地元農家からは「野菜や土壌への影響が不安」との声が上がった。生態系への影響も深刻で、近隣の水田や山林への空中拡散による汚染も懸念された。行政側は「新施設は最新のフィルターを備えており、環境への影響は極めて小さい」と主張するものの、その言葉は住民に届いていなかった。
計画は住民説明会を経ずに予算が組まれ、強引な土地収用手続きも進んでいた。こうした行政手法が地域の信頼を損ない、結果的に「ごみ処理をめぐる都市と地方の分断」という構造問題を浮き彫りにした。環境破壊とは単に物理的な損傷だけでなく、住民と行政との"信頼関係の崩壊"という社会的破壊も含まれていることを、この事例は示している。
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