白井喬二 ― 大衆文学の旗手 1889-1980

白井喬二 ― 大衆文学の旗手 1889-1980

白井喬二は 明治から昭和にかけて大衆文学を切り開いた代表的作家である。1889年に横浜で生まれ 官僚の父の転勤に伴い各地を転々とした経験は のちの作品に豊かな舞台背景を与えた。早稲田大学で文学に傾倒し 翻訳や新聞記者を経て創作を開始。大正期は都市化と雑誌文化の隆盛期で 庶民は娯楽を強く求めていた。白井はこの流れを捉え「娯楽雑誌愛すべし」と唱え 純文学ではなく人々の心に寄り添う小説を志した。1923年の関東大震災後には『新撰組』『富士に立つ影』を連載し 新聞小説の黄金時代を築いた。特に『富士に立つ影』は壮大な歴史ロマンとして読者を魅了し 暗い世相に希望を与えた。さらに直木三十五や江戸川乱歩らと共に「大衆文芸」を提唱し 文学を庶民に開放する運動を推進した。急速に近代化が進む昭和�
��期において 白井は単なる娯楽ではなく 社会的意義を持つ文学を確立し 大衆を文化的主体へと導いたのである。