Tuesday, September 30, 2025

光の縁に立つスクリーン 芦川いづみ 清純とモダンのあいだ(一九五三〜一九六八年)

光の縁に立つスクリーン 芦川いづみ 清純とモダンのあいだ(一九五三〜一九六八年)

芦川いづみ(一九三五〜二〇一〇)は、戦後の日活黄金期を象徴する清純派女優であった。川島雄三に見出され一九五三年にデビューし、短い期間ながら鮮烈な足跡を残した。彼女の透明感と控えめな演技は観客に「新しい清純」を印象づけ、石原裕次郎や小林旭の相手役としても数々の作品を支えた。『乳母車』(一九五六年)で裕次郎と初共演し、家庭の秘密に揺れる女子大生を繊細に演じ、以後の代表的な存在となる。川島作品『洲崎パラダイス 赤信号』『幕末太陽傳』では群像劇の中で自然な存在感を放ち、場面の空気を変える役割を果たした。さらに『陽のあたる坂道』(一九五八年)では高度成長期の都市と青春の光と影を体現し、観客に等身大の共感を呼び起こした。同世代の浅丘ルリ子が都会的な強さを示し、南田�
�子が成熟した艶を演じ、吉永小百合が「永遠の清純」を確立する中で、芦川はいづみは「揺れを抱えた清楚」として位置づけられた。私生活では藤竜也と結婚し、一九六八年に銀幕を退くが、その後も「和製オードリー・ヘプバーン」と呼ばれた美質は語り継がれた。彼女の演技は沈黙や視線に重きを置き、戦後日本映画が模索した新しい女性像を映し出している。今日なお回顧上映で光を放つその姿は、控えめでありながら確かな輝きを持つ存在の証と言える。

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