Tuesday, September 30, 2025

五木ひろし ― 昭和から平成へ、叙情を紡いだ国民的歌手 1970年代~2000年代

五木ひろし ― 昭和から平成へ、叙情を紡いだ国民的歌手 1970年代~2000年代

五木ひろし(本名 松山数夫、1948年福井県美方郡美浜町生まれ)は、演歌と歌謡曲をまたぐ独自の歌唱スタイルで長く国民的歌手として愛された。高度経済成長期が終わり、都市化の進展と共に人々の心に孤独や郷愁が漂い始めた1970年代初頭、彼は「よこはま・たそがれ」でデビュー。この曲は都会の哀愁を叙情的に描き、地方から都市に移り住んだ多くの人々の共感を集め、都会派演歌という新たなジャンルを切り開いた。以後も「夜空」「契り」「細雪」などの代表曲を世に送り出し、とくに「契り」は日本レコード大賞を受賞し、1980年代を代表する楽曲として知られる。

彼の歌唱は力強さよりも情緒と滑らかさを重視し、演歌とポップスの中間を歩むスタイルで広く支持を獲得した。同世代の森進一が情念的で土臭い歌世界を築き、北島三郎が庶民の哀歓と演歌の力強さを象徴したのに対し、五木は都会的でスマートな表現を前面に押し出したことで一線を画した。その結果、従来の演歌ファンにとどまらず、幅広い層に受け入れられた。

1980年代以降、演歌人気が徐々に低迷する中でも、五木はテレビ出演やコンサート活動を続け、常に挑戦を怠らなかった。昭和から平成への移り変わりの中で、彼の歌は都会と地方、伝統と近代をつなぐ役割を果たし、時代の空気を映し出す存在となった。代表作の数々は今なお歌い継がれ、彼自身も国民的歌手として確固たる地位を築き続けている。

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