山田五十鈴 ― 昭和を貫いた舞台と銀幕の華（1917～2012）

山田五十鈴 ― 昭和を貫いた舞台と銀幕の華（1917～2012）

山田五十鈴は新派俳優の父と芸者の母のもとに生まれ、十三歳で日活に入社。片岡千恵蔵や嵐寛寿郎の相手役に抜擢され、愛らしさと端正な顔立ちで一躍人気女優となった。溝口健二監督の「浪華悲歌」「祇園の姉妹」では、愛に翻弄されながらも強さを秘めた女性像を演じ、時代の矛盾を鋭く映し出した。戦後は「鶴八鶴次郎」で芸人役を熱演し、唯一無二の存在感を示す。六〇年代以降は舞台に軸足を移し、「たぬき」などで芸人役に新たな解釈を加えた。大きな瞳と柔和な表情を持つ容姿は、少女役から妖艶な女役まで自在に演じ分ける基盤となり、観客を魅了した。同世代の原節子が清楚な美貌と沈黙の神話で記憶され、高峰秀子が庶民的知性で国民的女優となったのに対し、山田は庶民や芸人に寄り添い、生活感に根ざした
演技で独自の地位を築いた。代表作「浪華悲歌」「祇園の姉妹」「鶴八鶴次郎」「たぬき」などを通じ、戦前から戦後にかけて舞台と銀幕の両面で輝きを放ち、日本映画と演劇史を貫く存在となった。