Wednesday, September 24, 2025

警察規制と反動性 ― 1920年代の香具師社会と権力との矛盾

警察規制と反動性 ― 1920年代の香具師社会と権力との矛盾

1920年代の香具師社会は都市の祭礼や縁日、興行の場で活動を展開していたが、その命運は常に警察の規制に大きく左右された。天候不順が出店に影響するのと同様に、警察の判断ひとつで営業が成り立たなくなる不安定さを抱えていたのである。危険な見世物や風俗的に問題視されるネタを扱えば、すぐに規制の対象となり、場合によっては出店停止や取り締まりを受けることもあった。香具師たちは「お上」に逆らう術を持たず、日々の生計を維持するためには警官との関係維持が不可欠であった。

この構造は、香具師社会が本質的に権力に従属せざるを得ない弱点を示している。警察は単なる治安維持機関ではなく、社会秩序を統制する権力装置として機能していたため、香具師が生き延びるにはその支配を受け入れるしかなかった。その結果、香具師たちはときに権力側の「下請け」として動員され、反動的な側面を帯びることになったのである。例えば、社会主義的な集会や労働争議が起これば、警察と利害を共有するかたちで活動を制限されることもあった。

当時の日本は大正デモクラシーの余韻の中にありながら、関東大震災後の治安強化政策や治安警察法の運用強化が進み、社会主義運動に対する抑圧が強まっていた。香具師社会はその周縁で庶民の娯楽を担いつつも、国家権力の監視と規制を受け入れざるを得ず、結果的に社会主義思想の掲げる自由や平等の理念とは相容れない矛盾を抱え込んだ。

こうして香具師たちは自らの任侠的倫理や相互扶助を重んじながらも、日常的には警察権力の支配下で生きるという二重性を持つ存在となった。その矛盾こそが、香具師社会の反動性を象徴するものであったといえる。

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