歌手 警察規制と反動性 ― 1920年代の香具師社会と権力との矛盾

歌手 警察規制と反動性 ― 1920年代の香具師社会と権力との矛盾

1920年代の香具師社会は縁日や祭礼を舞台に活動を展開しながらも常に警察の規制に大きく左右された。危険な見世物や風俗的に問題視されるネタを扱えばすぐに出店停止や取り締まりを受けることがあり香具師にとって警官の機嫌や判断は生活を左右する重大要因であった。天候と同様に不可避の外的条件として警察の規制が存在したため彼らは権力に逆らえない構造的弱点を抱えていたのである。

警察は治安維持を超えて社会秩序を統制する装置として機能し香具師はその支配を受け入れざるを得なかった。そのため時に香具師たちは権力側の下請け的役割を担わされることもあった。例えば労働争議や社会主義的な集会が起きた際には警察との利害関係の中で活動を制限され結果的に反動的な立場に組み込まれてしまうことがあった。

当時の日本社会は大正デモクラシーの高揚を経験する一方で関東大震災後には治安強化政策が進み治安警察法が社会主義運動への取り締まりを強化していた。こうした状況下で香具師社会は庶民の娯楽を担いながらも国家権力の監視と規制を受け入れるほかなく自由や平等を重んじる社会主義思想と相容れない矛盾を抱えた存在となった。

すなわち香具師社会は任侠的な相互扶助の精神を持ちながらも日常的には警察権力に従属する二重性を帯びていた。その矛盾こそが香具師社会の「反動性」を象徴するものであり当時の社会構造における独特な立ち位置を示していたのである。