任侠と社会主義の接点 ― 1920年代の矛盾と連帯

任侠と社会主義の接点 ― 1920年代の矛盾と連帯

1920年代の香具師社会は一方で親分子分制度に基づく封建的で反動的な秩序を保ちながらももう一方で「任侠思想」という独特の倫理観に支えられていた。任侠は「弱きを助け強きを挫く」精神を核とし必ずしも法や秩序に従わないが人間同士の義理と人情を重んじる文化を育んでいた。香具師の間では「清濁併せ呑む」姿勢が長年培われ過去の経歴や身分を問わず困窮する者を受け入れる寛容さが存在した。このため社会的に追い詰められた人々を救う行為は彼らにとって自然でありその包容力が社会主義運動との接点を生み出すことになった。

当時の日本は関東大震災後の混乱、不況や失業の増大、農村の困窮といった深刻な社会不安に覆われていた。労働運動や社会主義運動が広がる背景には人々の生活を支える新しい「連帯の仕組み」への切実な欲求があった。国家や警察が庶民を守ることに失敗する中で香具師社会の任侠的な助け合いの精神は社会主義が提唱する相互扶助の理念と響き合ったのである。

また香具師は都市下層の人々と密接に関わり興行師や演歌師、労働者と交流する場を提供していたため社会主義思想が自然に浸透する環境が整っていた。任侠的な柔軟な倫理はイデオロギーの堅苦しい枠組みを越え人と人の関係性を基盤に社会思想とつながった。結果として香具師社会は反動的秩序と革新的思想という矛盾を抱えながらもその任侠精神が社会主義運動の拡大を支える一翼を担ったのである。

この点は法や国家に依存せず自らの秩序と義理人情で動く任侠社会が制度や理論で語られる社会主義とは異なる「現場の実践」として共鳴したことを示している。