Thursday, September 4, 2025

抗いの季節に刻まれた影―安保闘争と青春の挫折(1960年から1970年)

抗いの季節に刻まれた影―安保闘争と青春の挫折(1960年から1970年)

1960年、日米安全保障条約の改定をめぐり、日本全土で大規模なデモが広がった。国会を取り囲む群衆の波は戦後民主主義の成熟を示すかに見えたが、最終的に条約は批准され、闘争は敗北の記憶を残した。この「60年安保」の挫折は、参加した若者に深い絶望を刻み込み、彼らの青春を政治闘争の影の下に置くことになった。

やがて1970年、再び安保改定期が訪れるが、そこに広がったのは熱狂ではなく、分裂と疲弊だった。学生運動は内ゲバや過激化に傾き、かつての理想は内側から崩れていく。政治を通じて世界を変えられるという確信は揺らぎ、むしろ「政治の季節」は若者に虚脱感を与えた。

文学はこの時代を逃さず記録した。小説の登場人物たちは、政治のうねりに飲み込まれ、挫折と喪失の中で自らの青春を重ね合わせた。闘争の熱と個人の孤独が交錯するその描写は、社会の分断と葛藤を映す鏡であった。作家たちは、政治と文学の交わる場所で、公共と個人、理想と現実を問い直したのである。

安保闘争をめぐる十年は、単なる政治的事件にとどまらず、一世代の精神史を形づくった。民主主義の理想が現実の政治に押し潰されるその矛盾は、戦後日本が抱え続ける課題であり、青春の痛みとともに文学の中に刻まれたのであった。

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