Monday, September 15, 2025

### 五木寛之の連載 ― 1970年代の都市と若者の肖像

### 五木寛之の連載 ― 1970年代の都市と若者の肖像

五木寛之は1968年の『青年は荒野をめざす』によって時代の寵児となったが、その勢いは1970年代に入っても衰えなかった。高度経済成長が一段落し、都市化と公害問題、安保闘争の余韻、学生運動の挫折が社会に重く残る時代。地方から大都市へ流入した若者たちは、豊かさを享受しながらも、価値観の空白や孤独を抱えていた。五木はそうした心情を鋭く描き出し、彼自身が「時代の語り部」として共感を呼んだ。

連載では都市の光と影を題材に、流行や風俗を背景にした青春群像を描写した。若者文化がファッション、音楽、喫茶店文化などで急速に多様化していく一方で、政治的イデオロギーから距離を置く風潮も広がっていた。五木はその「思想から消費への転換」を敏感に感じ取り、小説やエッセイで軽やかに表現した。

さらに評論活動では、戦後民主主義やアジアへの視線など、社会の転換点を意識した論考を発表。読者はそこに自己像を重ね、五木の文章を通じて「自分たちの時代」を確認した。1970年代の日本は高度経済成長の陰で精神的な空虚に直面しており、五木の連載はその虚無を言葉で掬い取る重要な試みであったといえる。

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