Tuesday, September 9, 2025

文壇・作家仲間の会話 ― 銀座「まり花」と1970年代文士社会

文壇・作家仲間の会話 ― 銀座「まり花」と1970年代文士社会

1970年代の日本文壇は、作家と編集者が夜の街で交流し、酒や麻雀を媒介に人脈を築く文化を持っていた。銀座のバー「まり花」には、新潮社や角川書店の関係者、さらに吉行淳之介、丸谷才一、阿佐田哲也といった作家たちが集い、文士麻雀大会の余波もあって軽妙なやり取りを交わしていた。そこでは単なる歓談にとどまらず、執筆依頼や企画の端緒となる交流が生まれ、酒場は文壇の社交サロンとして機能していた。背景には角川春樹の仕掛けるイベント戦略があり、作家を巻き込んだ華やかな舞台は角川文庫や雑誌への寄稿へと結びついていった。こうした場に集うことで、出版界の競争と連帯が同時に進行する独特の空気が醸成されたのである。吉行は戦後派の代表として成熟期を迎え、丸谷は批評と小説を架橋する存在、�
�佐田は麻雀小説で大衆的人気を得ていた。異なる作風を持つ三者が同じ卓を囲む姿は、文壇に残る共同体意識の象徴でもあった。社会全体には高度経済成長の終焉や政治的不信が漂っていたが、文士社会は銀座の夜を通じて結束を保ち、そこから新たな作品や企画を生み出す循環を維持していた。こうした場の力学こそが、1970年代後半の文壇の活力を支えていたのである。

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