Tuesday, September 9, 2025

山梨「甲州ワインビーフ」の誕生エピソード ― 1990年代の時代背景を踏まえて

山梨「甲州ワインビーフ」の誕生エピソード ― 1990年代の時代背景を踏まえて

1970年代から90年代にかけて、日本では高度経済成長期の大量生産・大量消費の仕組みが転換期を迎えていました。環境問題への意識が高まり、「ゼロ・エミッション」や「リサイクル」が社会のキーワードとなりつつありました。そんな時代に、山梨の酪農家・末木正名木さんの取り組みは、地域資源を循環させる先駆的な試みとして注目を集めます【7†source】。

末木さんは1957年から肉牛の飼育を始め、飼料の研究を続ける中で「おから」や「ワイン粕」という廃棄物に着目しました。特にワイン粕は、山梨という土地柄、近隣で大量に出る副産物でありながら、当時は廃棄される存在でした。「捨てるはずのものを利用する場合、加工や輸送に費用がかかっては意味がない。その点ワイン粕はそのまま混ぜればいいだけ」という言葉には、実務的な合理性と農家ならではのユーモアがにじみ出ています。これは効率を重んじながらも、自然の恵みを無駄なく活かそうとする姿勢を象徴しています【7†source】。

1970年代の高度成長の余韻の中、日本社会では「経済効率」こそが至上の価値でした。しかし1980年代以降、公害問題や廃棄物処理問題が顕在化し、1990年代に入ると「持続可能な社会」への移行が語られるようになります。国連大学が提唱したゼロ・エミッション構想が話題となり、産業間の「クラスタリング」、つまりある産業の廃棄物を他の産業の資源として再利用する発想が広がり始めました。その典型例として紹介されたのが、山梨の「甲州ワインビーフ」だったのです【7†source】。

1991年に銘柄牛としてデビューしたワインビーフは、やがて県内8牧場で生産され、1990年代半ばには年間2000頭近くが出荷される規模に成長しました。単なる「ご当地ブランド牛」ではなく、廃棄物利用による環境負荷低減と地域経済の循環を実現した点で、当時の環境政策や地域活性化の文脈と響き合っていました。そして1997年には甲府商工会議所から環境貢献賞を受賞し、環境と経済の両立を象徴する存在となります【7†source】。

このエピソードは、農家同士の会話や末木さんの語り口を通して伝えられています。その実直さとユーモラスな表現は、時代の要請に応える「環境と経済の新しい関係」を、地域の現場から生み出した人々の息遣いを感じさせます。

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