Thursday, September 18, 2025

バイオマスのメタン発酵技術 ― 廃棄物処理と再生可能エネルギーの接点(1990年代後半)

バイオマスのメタン発酵技術 ― 廃棄物処理と再生可能エネルギーの接点(1990年代後半)

1990年代後半、日本社会では大量生産・大量消費に伴う食品廃棄物や農業残渣の増加が深刻な課題となっていた。バブル崩壊後の景気低迷期にあっても大量の食品が廃棄され、また農業分野でも副産物の処理が問題視されていた。当時の主流は焼却処理であり、ダイオキシン問題やCO₂排出増加が社会的な批判を集めていた。この状況の中、廃棄物処理と温暖化対策を両立する技術として注目されたのが「バイオマスのメタン発酵」であった。

この技術は、食品残渣や家畜糞尿、農業副産物など有機性廃棄物を嫌気性微生物により分解し、メタン主体のバイオガスを生成する仕組みである。生成されたガスは発電や熱利用に活用でき、残渣は肥料として農地還元が可能である。こうした「循環型社会」を具体化する技術は、1990年代の環境政策や学会で大きく注目され、国内でも実証プラントが建設され始めた。特に自治体レベルでは、焼却施設に代わる廃棄物処理の新しい選択肢として導入検討が進んだ。

背景には、1997年の京都議定書採択により、日本に温室効果ガス削減義務が課せられたことがある。CO₂排出削減と再生可能エネルギー導入は急務となり、メタン発酵はその両方を満たす技術として期待を集めた。欧州、とりわけドイツやデンマークではすでにバイオガスプラントが普及しており、日本も追随する形で研究開発が加速した。

この技術は単なる廃棄物処理の延長ではなく、「廃棄物=資源」という価値観の転換を象徴していた。大量廃棄社会に対する反省と、循環型社会への移行を示す先駆的な事例であり、後の「食品リサイクル法」(2001年施行)やバイオマス・ニッポン総合戦略(2002年策定)へとつながる政策的土台を築いた。

No comments:

Post a Comment