Wednesday, September 10, 2025

岐阜県の「飛騨エコパスポート」 ― 1990年代の観光と環境保全の融合

岐阜県の「飛騨エコパスポート」 ― 1990年代の観光と環境保全の融合

1990年代、日本各地で「地域振興」と「環境保全」をどう両立させるかが課題となっていました。高度成長期から観光地化が進んだ飛騨地方は、白川郷の合掌造りや北アルプスの山岳景観など豊かな自然・文化資源を抱える一方、観光客増加に伴う環境負荷が問題視されていました。バブル崩壊後の経済停滞も重なり、地域活性化と持続可能な観光の仕組みづくりが求められていたのです。

そうした中で岐阜県が打ち出したのが「飛騨エコパスポート」でした。これは割引券付きの観光冊子で、販売収益を自然保全基金に充てる全国初の試みとして注目されました。購入者は自然観察会や高山祭行列への特別参加権などを得られ、観光体験と環境保全が直結する仕組みが構築されました。県は1998年末までに2万3000部を販売し、手数料を差し引いても2000万円以上の助成金を確保できると試算。得られた資金は自然保護活動やボランティア支援に充当される計画でした。

当時は「エコツーリズム」という概念が日本でも広まり始めた時期であり、単なる観光消費から「環境教育」や「地域参加型観光」へと意識が移行しつつありました。環境ISO(ISO14001)の普及とあいまって、行政も「持続可能な観光モデル」を模索していたのです。

飛騨エコパスポートは、観光収益を直接的に自然保護へ還元する仕組みとして、地域と観光客双方にメリットを与える新しい形を提示しました。その意義は、地域の文化資源や自然資源を単なる「消費対象」とせず、未来世代に残すべき資産として位置づける転換にありました。これは後に全国で広がるエコツーリズム推進策の先駆けとして、大きな意味を持っていたのです。

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