■1997年1月のナホトカ号事故に代表される海洋での油流出事故は、小規模なものも含め、今でも国内で年間300件以上が報告されています。
さらに河川における油汚染事故も急速に増加しており、98年には海洋油汚染事故の発生件数を上回り、年間600件以上にのぼっています。
こうした汚染油の回収資材として吸着マットや中和剤、乳化分散剤などが主流となっていますが、回収スピードや使いやすさなどで近年、注目を集めているのが粉末状の油ゲル剤です。
株式会社アルファジャパンは、91年に世界でも初めての粉末油ゲル化剤を開発しました。
汚染油回収資材としては後発でありながら、海洋、河川だけでなく工場や土壌などの利用先を開拓し、業績をあげています。
●粉末油ゲル化剤とは、その使用方法は非常に簡単です。
燃料油、機械油、廃油、溶剤などの流出現場で、粉末のゲル化剤をさっと散布するだけです。
対象物質にもよりますが、10分ほどで固まり始めます。
一般的に対象油の重量の1%に対し、本剤を0.2~0.3使用します。
現在のところ、溶剤、ガソリン、灯油、軽油、重油など燃料油向けの「アルファゲル1000」、潤滑油、植物油など潤滑油類向けの「アルファゲル1650」を発売しており、価格は10kg当たり約3万円となっています。
「粉末油ゲル化剤の基礎技術は、石油大手のシェルが特許を持っていたゲル化剤技術です。
しかし、製品化はされておらず、また60年代半ばにその特許が失効していました。
その情報を知人から聞き、独自の製品化に結びつけたというわけです。
それまでは経営コンサル業を営んでいましたが、ちょうど90年に湾岸戦争があり、油にまみれた水の映像が盛んに流れていたころで、汚染油の回収に心が引き寄せられていった」と同社代表取締役・中田博三さんは開発のきっかけを語りました。
●特徴を活かす装置開発。
開発当初は、粉末油ゲル化剤は世界でも初めての商品であり、認知度も低かったためほとんど引き合いはありませんでした。
また、海洋における油回収で使用される回収資材については、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」で仕様が厳格に規定されており、かつ国土交通省の型式認証を取得することが義務付けられています。
それまでは、吸着マット、油処理剤(中和剤、乳化分散剤)、液体油ゲル化剤の3種類しか排出油防除資材として認められていませんでした。
そこで、アルファジャパンは93年に国土交通省(当時運輸省)へ型式認証を申請し、95年11月に施行された法律の一部改正により認められることとなりました。
その一方で、アルファジャパンは現場でのゲル化剤の散布を容易にするために、散布機の開発も行いました。
容器からゲル化剤を直接吸入し、散布するエジェクター式散布機の「アルファジェットME-1」をはじめとし、現場の状況に応じた散布機を提供しています。
●油汚染防除のスペシャリストとして、「当初、粉末油ゲル化剤のターゲットとして考えていたのは海洋事故による油汚染でした。
しかし、それほど頻繁に事故が発生するわけでもありません。
もちろん事故が起きないことは喜ぶべきことですが、ビジネスとしてはちょっと誤算でした」と中田さんは述べています。
海洋汚染防止法では、一定の総トン数以上のタンカーが原油、重油などを貨物として積載し、港湾その他の国土交通省令で定める海域を航行中である場合には、オイルフェンス、油処理剤などの排出油防除資材の備え付けが義務付けられています。
また、認可法人の海上災害防止センターでは、全国33カ所に排出油防除資材備付基地を配備し、タンカーなどに資機材を供給しています。
アルファゲルもこうしたところで利用されていますが、事故が起こらない限り、年間に備え付け分の3%程度の入替え需要しかありません。
「しかし、河川や土壌、工場などで流出した油、床や通路の各種油の除去や廃油処理などでの引き合いが思いのほか多い。
むしろ市場としては海洋以上に大きい」河川への油流出は、通報されるものだけでも海洋事故の2倍以上の件数があります。
しかし水質汚濁防止法や河川法で通報義務があるものの、海洋事故に比べ、連絡体制や対応の仕方などノウハウがしっかりと確立されていないのが現状です。
また、最近の企業の環境リスクに対する意識の高まりで、これまで先延ばしにしていた、タンクなどからの油漏出や、その後に起こる地中からの油滲み出しなどに対する処理が加速しています。
こうした状況の下で、アルファゲルの販売だけでなく、現場指導やコーディネートといったコンサルティングでの出番も増えています。
「河川への油流出事故が発生すると、国や県、市町村、保健所、消防署、警察署などから50人ほどが集まり対策本部が設置されます。
しかし海洋事故の場合に海上保安庁が対応するように指揮が一元化されているわけではなく、また対応ノウハウも蓄積されていません。
工場での油処理にしても、資材だけあれば解決できる問題ではなく、調査やそれにもとづく回収計画の策定など、専門家の知識が必要とされています」中田さんは、河川におけるESIマップの必要性を説いています。
これは、海洋の油防除活動の世界では近年、整備が盛んになっているもので、海岸線に沿って沿岸の経済・社会・生態系・文化など、さまざまな情報や海岸線の形態によって防除難易度などの情報を含んだものです。
しかし、河川ではまだほとんど作成例がありません。
そこで、アルファジャパンを含む油等汚染物質の防除資機材を取り扱う事業者が中心となって、2003年に設立された「関東油濁防除研究会」では、河川ESIマップのサンプル版を作成し、研究を進めています。
今後も海洋、河川、土壌、工場などで油処理剤の利用がさらに広がると、中田さんは考えています。
法規制の強化や周辺住民の環境意識の高まりにより、これまで通報されなかったような偶発事故や企業での対策が進むと予測されるからです。
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