医療廃棄物を無害化する技術革新―埼玉県鳩山町の熱分解装置(1998年6月)
1990年代後半、日本ではバブル崩壊後の停滞の影で、公害問題や環境規制が一層強化されていた。特に注目されたのが医療廃棄物の処理である。エイズや肝炎の感染不安に加え、焼却処理に伴うダイオキシン発生問題が社会的に深刻化し、医療機関ごとに設置された小型焼却炉の閉鎖が全国で進んでいた。廃棄物処理の新たな方法が急務となる中で、埼玉県鳩山町のメーカーが開発した熱分解装置は時代の要請に応えるものだった。
この装置は廃棄物を無酸素状態で蒸し焼きにし、さらに800℃の高温で加熱する二段階処理を行う。酸素を遮断するため燃焼に比べて有害ガスの発生が少なく、加熱工程によって感染性病原体を徹底的に殺菌できるのが特徴である。ダイオキシンや硫黄酸化物(SOx)の排出を抑制できる点で従来の焼却炉より優れており、感染性廃棄物と化学薬品を含む特殊産業廃棄物の双方に対応可能であった。
関連技術としては、同時期に普及が進んだオートクレーブ滅菌法がある。これは高温高圧の蒸気で廃棄物を滅菌し、焼却せずに安全化する方法で、病院内の処理装置として拡大した。また、ガス化溶融炉の技術も進展し、ごみを高温でガス化しながら残渣を溶融してスラグとして再利用する方式が各自治体で導入された。さらに、プラズマアーク炉による超高温分解技術も研究され、より完全な無害化を目指す流れが広がっていた。
こうした技術の開発と並行して、1997年の「ダイオキシン規制法」や2000年の「ダイオキシン対策特別措置法」が制定され、処理施設に対する排出基準が厳格化された。鳩山町の熱分解装置は、これら法規制の強化に呼応しつつ、廃棄物処理を「焼却から無害化」へと転換させる象徴的な技術であった。
この事例は、廃棄物を単に処分するのではなく「制御されたプロセスで無害化し、環境負荷を最小化する」という理念を先取りしており、今日の廃棄物管理や循環型社会の基盤を築く重要な一歩であった。
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