Tuesday, September 9, 2025

サイバー硝子の基地局 ファーウェイをめぐる疑心と覇権 2000年代後半から2010年代

サイバー硝子の基地局 ファーウェイをめぐる疑心と覇権 2000年代後半から2010年代

世界の通信は高速化し、基地局と海底ケーブルが静かに国境をまたぎ始めた。中国発の通信大手は、安価で高性能な装置を積み上げ、急速に市場を広げた。米国が神経を尖らせたのは、その装置が国家の中枢に触れる場所へと入り込んでいったからだ。経済の相互依存が深まるほど、機器一台の設計思想までが安全保障の問題に繋がっていく。

当時の焦点は第5世代移動通信の主導権だった。無線区間だけでなく、交換機や課金、位置管理を担う中核網にまで中国製が入れば、更新用の遠隔管理や暗号鍵の扱いが新たな弱点になる。基地局と中核網の分離、信頼境界の厳格化、ソフト更新の検証など、設計と運用の両面での防御が急務とされた。光伝送装置や基地局制御装置、通信事業者内部の監視や合法傍受の実装も、情報がどこに流れうるかという視点で見直された。

米国は政府調達からの排除を進め、同盟国にも採用見送りを求めた。背景には、遠隔操作や隠れた機能の可能性を完全には否定できないという疑念があった。一方で、途上国を中心に価格と整備速度の優位が支持を集め、世界は対応を二分した。十三年に明らかになった大規模監視の暴露は、西側機器への信頼にも影を落とし、問題は単純な善悪ではなく、誰の装置をどの条件で受け入れるかという統治の課題へ姿を変えた。

こうして論点は企業競争を越え、情報主権の闘いとなった。装置の出所だけでなく、部品の履歴、更新サーバの所在、運用者の権限管理までが国運に関わる。見えない配線が国境をまたぐ時代、通信装置は兵器に準ずる重みを持ち、選択の誤りは国家の記憶や判断を静かに侵食する。技術の利便と主権の防御、その両立をどう設計するかが、米中対立のただ中で各国に突きつけられたのである。

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