仕立て直しの時代―壱番館のスーツリフォームとリユース文化 2001年
2001年前後、日本は長引く不況とバブル崩壊後の消費停滞に直面していた。大量生産・大量消費を前提とした経済はすでに揺らぎ始め、消費者の価値観は「新しいものを買う」から「今あるものを活かす」へと変化しつつあった。そんな時代に注目されたのが、老舗テーラー壱番館によるスーツリフォームの事業展開である。
壱番館の社長は「これからの事業の中心はリフォームです」と語り、従来のオーダーメイド一辺倒からの転換を明確に打ち出した。その背景には、バブル期に購入された高級スーツがクローゼットに眠っている現実があった。質の高い生地や縫製は十分残っているにもかかわらず、デザインやサイズ感が時代に合わなくなっている。これを顧客の体型や流行に合わせて仕立て直すリフォームは、まさに時代の要請に応えるものだった。
記事の中では、女性客が「主人のスーツを細身に直してほしい」と相談する場面が描かれており、職人と顧客との会話を通じて新しい需要が生まれる様子が伝えられている。単なる衣服の修繕ではなく、愛着のある一着に新しい命を吹き込むプロセスは、リユースの精神そのものであった。
このような取り組みは、同時期に広がり始めたリサイクルショップや古着市場とも共鳴していた。大量廃棄が問題視される中で、衣服の「循環利用」がエコロジーの観点からも注目を浴びたのである。循環型社会形成推進基本法が施行された2001年の時代背景と重なり、壱番館のような老舗がリフォームを軸に事業を再構築する姿は、環境配慮型ビジネスの先駆けとも言えた。
壱番館のスーツリフォームは、経営者と顧客の会話の中から生まれ、リユースという考え方が日常の暮らしに浸透し始めた時代を象徴している。それは同時に、日本社会が「作っては捨てる」から「直して使う」へと舵を切る重要な転換点でもあった。
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