黒い多孔がひらいた環境産業の扉 活性炭開発が加速した時代 2001年
二十一世紀の入口で、日本と世界は環境規制の網を急速に編み直していた。国内ではダイオキシン類対策特別措置法が九九年に制定され二〇〇〇年に本格運用へ。循環型社会形成基本法も整い、資源循環と有害物質管理が政策の柱になった。欧州では廃棄物焼却指令二〇〇〇年版が焼却炉のダイオキシン基準を厳格化し、有機溶剤を扱う産業には一九九九年の溶剤指令で揮発性有機化合物の排出上限が課せられた。日本でも化学物質の排出移動量届出制度が二〇〇一年から動き出し、工場や自治体は見える化と削減を迫られた。こうした規制の連鎖が、活性炭という古くて新しい多孔質材料を前面へ押し出したのである。
焼却炉の排ガス対策では、粉末活性炭を冷却後の煙道に吹き込み、ろ布集じん機の前でダイオキシンや水銀を吸着させる方式が定着した。吸着によって再生成を抑え、袋フィルタで捕集する流れである。九〇年代後半から二〇〇一年当時にかけて、この方式は各国のガイドラインや実務に急速に浸透し、装置産業に新たな市場を生んだ。日本でも焼却施設の高性能化が進み、活性炭の銘柄や供給体制の整備が課題となった。
水と空気の分野では、粒状や粉末に加えて繊維状活性炭の研究開発が勢いを増した。繊維状は薄く成形でき、通気抵抗が小さく、吸着速度が速い。日本の研究者は硫黄酸化物や窒素酸化物の同時除去や、有機ガスの迅速吸着を報告し、家庭用浄水や空気清浄から産業用まで応用範囲が広がった。味や臭いの除去、微量化学物質の管理、作業環境の改善に、活性炭の設計と再生技術が相次いで導入されていく。
規制の強化はコストでもあったが、技術の進歩と市場の拡大でもあった。焼却炉の厳格な排出基準は装置更新を促し、溶剤規制は塗装や印刷などの局所排気と吸着回収の導入を進めた。化学物質の排出届出は自主管理を促し、吸着材の選定やライフサイクルの見直しを後押しした。活性炭は単体の資材ではなく、計測と運転制御、ろ過や触媒との組み合わせまで含めた総合技術として成熟していく。
振り返れば、二〇〇一年前後は、規制と市場、研究と実装が噛み合い、活性炭が環境ビジネスの要へとせり上がった時代であった。ダイオキシンと揮発性有機化合物をめぐる国際的な基準が、排ガス処理、水処理、空気清浄の現場を変え、材料と装置の革新を呼び込んだのである。今日に続く高性能ろ過や繊維状活性炭の展開は、この時代の土台の上に築かれている。
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