Tuesday, September 9, 2025

高知県の森林環境税導入 2003年4月

高知県の森林環境税導入 2003年4月

2003年4月、高知県は全国に先駆けて「森林環境税」を導入した。県民税に一律500円を上乗せし、その財源を森林整備に充てるという仕組みは、当時として画期的であった。背景には、山林の荒廃による保水力の低下や水源涵養機能の喪失が深刻化していたことがある。高度経済成長期以降の急速な都市化と林業の衰退により、間伐が行われず放置された人工林が各地で増え、土砂災害や渇水リスクが顕在化していた。特に高知県は降水量の多い地域であるにもかかわらず、水資源の持続的な利用が危ぶまれており、流域全体の保全が急務とされていた。

当時の日本社会では、環境税の是非が議論されていた時期である。1997年の京都議定書採択を受けて、温室効果ガス削減に向けた「環境税」構想が政府内外で取り沙汰されていたが、産業界の反発や税制全体への影響を理由に全国的な導入は進まなかった。そのような中で、高知県が森林に焦点を当てた独自の環境税を導入したことは、地方自治体が自らの自然資源を守るために財源を確保する先駆的な事例として注目を集めた。

この税収は、荒廃した人工林の間伐や植林、林道整備、流域管理に用いられた。目的は単なる森林保護にとどまらず、飲料水や農業用水の安定供給を確保する点にあり、住民生活や地域産業を支える基盤整備と位置付けられた。また、森林整備は二酸化炭素吸収源の確保とも結びつけられ、地球温暖化対策の一環として国際的にも評価された。

さらに、この高知県の取り組みは波及効果を生み、神奈川県や岡山県など他の自治体でも森林環境税の導入が検討・実施される契機となった。地方自治体が独自に環境課題に取り組み、地域住民に負担を求めつつ合意形成を図った事例は、分権化の進む2000年代初頭の地方行政の新しい方向性を示していたのである。

この高知県の森林環境税導入は、地域資源を守るために地方が主体的に財源を創出する試みであり、環境と経済、そして住民生活をつなぐ「環境政策の実験場」として後年まで語り継がれることとなった。

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