Saturday, September 20, 2025

東京湾流域 ― 下水道事業における排出枠取引制度 2003年

東京湾流域 ― 下水道事業における排出枠取引制度 2003年
2000年代初頭、日本では地球温暖化防止や水質汚濁対策を背景に、従来の規制中心の環境政策に経済的手法を導入する動きが強まっていた。その代表例として検討されたのが、東京湾流域を対象とする下水道事業での排出枠取引制度である。国土交通省は2002年度に専門委員会を設置し、流域内77の下水処理場を対象に高度処理を行った場合のシミュレーションを実施した。その結果、従来計画に比べて最大10%の費用削減が可能との試算が示され、制度化への道筋が模索された。

背景には1997年の京都議定書採択と2005年の発効を控えた国際的な温室効果ガス削減の潮流があり、経済合理性と環境対策を両立させることが各国共通の課題であった。米国やEUでは既に排出権取引制度が導入されており、日本も水質汚濁や富栄養化対策に同様の仕組みを応用しようとしたのである。特に東京湾は高度経済成長期以降、工業排水や生活排水による窒素・リンの蓄積で赤潮や貧酸素水塊が慢性化しており、環境修復には高額なコストが必要だった。

排出枠取引制度は、処理場ごとに負荷削減の役割を柔軟に配分することで効率化を図る仕組みであり、公共事業に市場原理を取り入れる先駆的試みといえた。さらに伊勢湾を新たな検討対象に加える構想も浮上し、制度設計の可能性は全国的に広がりつつあった。この取り組みは、日本の環境経済政策が単なる規制から持続可能な資源配分を重視する方向へ転換する象徴的事例であった。

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