Monday, September 29, 2025

スノーデン事件とその時代背景(2013年)

スノーデン事件とその時代背景(2013年)

2013年に発覚したスノーデン事件は21世紀初頭の国際秩序を大きく揺るがした。背景には2001年の同時多発テロ以降米国で急速に拡大した「テロとの戦い」がある。パトリオット法の制定により国家安全保障局(NSA)は国内外の通信傍受やデータ収集の権限を強化されIT技術の発展とともに監視の網はかつてない規模に広がっていった。冷戦期にはソ連の脅威が最大の焦点だったが9.11後は「テロリストによる目に見えない脅威」に対応するため情報収集活動は従来の外交的・軍事的枠組みを超えて日常生活にまで及んだ。

スノーデンはNSAの契約社員として膨大な機密文書にアクセスできる立場にありPRISMなどの監視プログラムがグーグルやマイクロソフト、アップルといったIT大手のデータを経由して個人の通信や検索履歴まで収集している実態を暴露した。暴露された文書は約150万件に上りその規模は過去の内部告発をはるかに凌駕していた。これにより米国政府が自国民だけでなく同盟国首脳の通信まで監視していたことが明らかとなり特にドイツ首相アンゲラ・メルケルの携帯電話盗聴は米独関係に深刻な亀裂を生じさせた。

時代的に見ると2010年代初頭は「アラブの春」やSNSの普及に象徴されるようにインターネットが政治変動の触媒として機能し始めた時期だった。米国は自由と民主主義を掲げる一方で裏では巨大な監視体制を築き上げていたことが露呈し世界的な二重基準への批判が高まった。米国内では市民のプライバシー権と国家安全保障のバランスが問われ国外では「デジタル主権」という概念が注目を集めEUを中心にデータ保護規制の強化へとつながっていった。

またこの事件は米国の「ソフトパワー」にも陰を落とした。冷戦後米国はインターネットの自由を推進する旗手とされていたがスノーデン事件によってその裏で「情報覇権」を握るための監視国家としての顔が浮き彫りとなった。結果として中国やロシアといった権威主義国家は米国の偽善を批判し自国のネット規制を正当化する材料とした。つまりスノーデン事件は単なる内部告発にとどまらずグローバルな権力関係や情報秩序を揺さぶる契機となったのである。

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