Saturday, September 20, 2025

中国移動の欧州データセンター開設(2019年) ― データ主権をめぐる新たな地政学

中国移動の欧州データセンター開設(2019年) ― データ主権をめぐる新たな地政学

2019年12月、中国最大の通信事業者である中国移動は、初めてヨーロッパにデータセンターを設立した。これは単なる市場拡大ではなく、国際政治の舞台で「データ覇権」をめぐる競争が激化する中で大きな意味を持つ動きだった。当時はクラウドや5Gの普及によりデータ管理が安全保障と直結する課題となり、EUは2018年にGDPRを施行してデータ主権を強化していた。そのため中国企業が現地拠点を持つことは、欧州の規制下で事業を行える政治的メッセージともなった。同時期、米中対立が深刻化し、特にHuawei排除をめぐる圧力が欧米で強まっていた。アメリカは中国企業の設備がスパイ活動に利用されると警告し、同盟国にも排除を求めたが、欧州諸国はコストや技術の面で中国依存を避けられず、協力と警戒の間で揺れ動いた。中国
側は一帯一路のデジタル・シルクロード戦略の一環として欧州進出を進め、アジアやアフリカに続き欧州にまで通信網を広げることを狙った。この動きは「データは21世紀の石油」と称された潮流の象徴であり、資源や軍事力と同等にデータ管理が国際秩序を左右する時代を示していた。中国移動の欧州拠点開設は、単なるビジネス展開を超え、米中対立の中で「データ主権」と「国際的信頼」をめぐる大国間競争の一断面として位置付けられた。

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