歌舞伎町・行政と現場のギャップ―2020年春
2020年3月末、新型コロナの感染拡大を受けて小池都知事は会見で「バーやナイトクラブなど接待を伴う飲食業での感染が多発している」と警告を発しました。都民への危機感喚起を狙った発言でしたが、現場で働く人々には大きな違和感を残しました。というのも、風営法では「キャバクラ」「ホストクラブ」といった接待を伴う店舗と、「バー」のように接待行為を禁じられた深夜酒類提供店は明確に区分されており、営業形態も営業時間も異なります。しかし都知事の言葉はそれらを一括して危険視する内容で、法的にも業態的にも整合性を欠いていました。
こうした行政発言が全国ニュースとして報じられると、多くの市民にとっては業種の区別など関心の外であり、結果として「夜の街=感染源」というイメージが一気に広がりました。現場の経営者や従業員は「真面目に営業しているのに同列にされ、まるで加害者扱いだ」と憤り、苛立ちを募らせました。とりわけ歌舞伎町はメディア映像で繰り返し映し出されたため、スケープゴートとして標的にされ、SNSでも「出禁にしろ」「街ごと閉鎖せよ」といった過激な声が飛び交いました。
当時は緊急事態宣言が目前に迫り、政治指導者の言葉が社会の空気を決定づけるほどの緊張感が漂っていました。感染抑止を優先する行政の論理と、日々の糧を失いかねない現場の生活感が鋭くぶつかり合ったことで、「行政と現場のギャップ」は歌舞伎町に暮らす人々の心に深い傷を残したのです。
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