シベリアの凍土を越えて―記憶の語り部たち 2025年
東京・日本橋で行われた集いに、百歳を迎えた元抑留者とその家族が登壇した。極寒の収容所での過酷な労働や、飢えと病に苦しんだ日々、祖国に戻れず命を落とした仲間たちへの思いが、静かに語られた。証言の合間に流れる沈黙には、語り尽くせぬ重みがあった。会場には若い世代も多く集まり、直接の体験を持たぬ彼らが真剣に耳を傾けていた姿が印象的である。
シベリア抑留は、第二次世界大戦の終結直後、ソ連によって日本人兵士や民間人が強制的に連行され、長期間にわたり労働を課された歴史である。約五十七万人が抑留され、そのうち六万人以上が命を落としたとされる。戦後の冷戦期、政治的な緊張の中で長らく語りづらかったが、九〇年代以降は証言活動が広がり、教育や記録の形で少しずつ社会に根を下ろしてきた。
今回の対談では、子や孫の世代も発言し、家族の歴史が個人を超えて社会の記憶へとつながることが示された。戦争の影は世代を越えて続き、沈黙の裏にある痛みが改めて浮き彫りとなった。語り部の声は、単なる過去の記録ではなく、未来への警鐘であり、平和を希求する意思を次代へ渡す営みである。戦後八十年を迎える節目の年に、この語りの場が東京の中心で持たれたことは、歴史の継承が今なお切実な課題であることを物語っている。
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