Wednesday, September 10, 2025

望郷の歌声 ― 千昌夫と昭和の抒情(昭和40年代~50年代)

望郷の歌声 ― 千昌夫と昭和の抒情(昭和40年代~50年代)

千昌夫は昭和40年代に登場し、戦後復興と高度経済成長のただ中で「星影のワルツ」(1966年)を大ヒットさせ、日本人の心に深い郷愁を刻んだ歌手である。岩手県陸前高田市出身という背景も、地方から都市へ移り住む人々の感情と重なり、彼の歌は故郷を思う心の象徴として支持された。同時代には美空ひばりや三波春夫、森進一といった大歌手が存在したが、千昌夫はとりわけ「望郷」の感情を前面に押し出し、出稼ぎや地方出身者の心を代弁する独自の位置を築いた。代表作「星影のワルツ」はワルツ調で哀愁を静かに歌い上げ、従来の演歌にはなかった抒情性で新境地を開いた。また「北国の春」(1977年)は、都市化と人口流出の時代背景を背に広く共感を集め、アジア諸国でも親しまれる曲となった。昭和50年代には不動産
事業に進出し話題を呼んだが、その根底にあったのは常に「故郷を思う心」であった。同世代の歌手たちが都会や時代の最前線を歌ったのに対し、千昌夫は地方の魂の居場所を示し、昭和の「望郷の歌声」として人々の記憶に残り続けている。

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