Sunday, September 21, 2025

AMSC事件 ― 2011年、知財窃盗が揺さぶったグリーン産業

AMSC事件 ― 2011年、知財窃盗が揺さぶったグリーン産業

2011年、再生可能エネルギー分野で急成長を遂げていたアメリカン・スーパーコンダクター(AMSC)は、中国のシノベル・ウィンド・グループとの取引で壊滅的な打撃を受けた。シノベルはAMSCの風力発電機制御用ソフトウェアや設計図を不正にコピーし、独自製品に利用したうえで、7億ドル超の契約を突如キャンセルしたのである。この決定により、AMSCの株価は1日で40%下落し、数か月で84%もの暴落を記録した。

その後の調査で、シノベルがAMSCのソースコード全体を持ち去り、自社で同等のシステムを製造可能にしていた事実が発覚した。単なる取引停止ではなく、国家レベルで仕組まれた知的財産窃盗であり、アメリカ当局は「人類史上最大級の富の移転」と表現した。さらに、AMSCオーストリア支社に勤務していたセルビア人技術者デヤン・カラバセヴィッチが内部協力者として関与していたことも明らかになり、インサイダー脅威の現実を浮き彫りにした。

この事件の背景には、2010年代初頭の世界的なエネルギー転換政策がある。各国は気候変動対策として再生可能エネルギーの導入を進め、中国は風力発電を国家戦略の一環として育成していた。急速な産業拡大に伴い、海外技術の獲得は最優先課題であり、サイバー攻撃や産業スパイ行為が常態化していた。AMSC事件は、環境技術が国際的な経済安全保障の核心にあることを示し、知的財産の保護や企業防衛のあり方を根底から問い直した。

AMSC事件 ― 2011年

No comments:

Post a Comment