Saturday, September 20, 2025

夜鷹と飯盛女 ― 江戸から長崎へ続く旅の風俗(江戸期)

夜鷹と飯盛女 ― 江戸から長崎へ続く旅の風俗(江戸期)

江戸から長崎に至る街道には、庶民の旅を彩る独特の風俗が根付いていた。江戸の都市では芸者が座敷を盛り上げていたが、宿場町では芸者が常駐せず、旅籠に雇われた飯盛女がその役割を担った。飯盛女は本来、食事を運ぶ奉公人であったが、実際には性的接待を行うことが多く、旅籠経営の収益を支える不可欠な存在であった。彼女たちは旅人にとって一時の慰めであると同時に、長旅の孤独や不安を和らげる役割を果たしていた。

都市周辺には夜鷹と呼ばれる最下層の遊女もおり、路上で客を取る姿は庶民の性生活の現実を映し出していた。彼女たちは治安維持の観点からたびたび取り締まりの対象となったが、社会から排除されることはなく、都市風俗の影の部分として存在し続けた。街道沿いの銭湯や旅籠もまた、この風俗文化と結びつき、旅人の生活に深く入り込んでいた。

江戸後期には交通の発達とともに旅が盛んになり、宿場の数や規模も拡大した。飯盛女や遊女は制度的に黙認され、旅の文化の一部として定着していく。華やかな吉原の花魁とは異なり、彼女たちは庶民や旅人の日常に密着した存在であり、江戸から長崎まで続く広域的な風俗文化を支える基盤となった。こうした姿は、江戸期の都市と地方、日常と非日常が交錯する社会の縮図を鮮やかに示している。

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