Friday, September 12, 2025

「新宿西口から桂花ラーメンへ歩く」

「新宿西口から桂花ラーメンへ歩く」

新宿西口から歩いていくと、紀伊國屋書店の近くに「桂花ラーメン」があります。ここは熊本ラーメンの名店で、40年以上営業を続ける老舗です。観光客が増えた影響もあり、歌舞伎町を語る上でしばしば登場する存在です。日本では1980年代ごろから観光の大衆化が進み、当時はカメラを首から下げた日本人観光客が揶揄されることもありました。しかし経済発展とともに観光は当たり前のものとなり、周辺アジア諸国が豊かになると、歌舞伎町に訪れる観光客も急増しました。現在では白人観光客よりもアジア系の来訪者が多く見られるのが特徴です。

世界の大都市はどこも似通い、同じような景色が広がります。そうした中で歌舞伎町の特異性は、日本語の看板や雑多な街並みといった独自の文化にあります。紀伊國屋のような文化施設は、外国人には理解しにくいかもしれませんが、それこそが「日本的」な体験として受け止められているのでしょう。渋谷が観光地化して均質化したのに対し、歌舞伎町はまだアジア的な猥雑さを保っています。

歌舞伎町の広さについては、長く暮らす人には狭く感じられ、初めて訪れる人には広大に思えるという特徴があります。地下道は新宿三丁目から都庁前までつながり、心理的な広さと物理的な広さの差が際立っています。駅に近いブロックは映画館など文化施設が多く落ち着いた雰囲気ですが、桜通りを入ると一気に「歌舞伎町らしさ」が濃くなり、昔はスカウトや暴力団が多く緊張感のある街並みでした。

現在は「ゴジラタワー」周辺まで外国人観光客が普通に訪れ、さらに奥に進むとホストクラブ街という全く別の空気が漂います。歌舞伎町は一括りに語るのが難しく、少なくとも三つの街が重なっていると考える方が自然でしょう。文化系のブロックにある桂花ラーメンは、中高生や女性でも安心して訪れることができ、歌舞伎町の中でも落ち着いた存在です。

桂花ラーメンは40〜50年の歴史を持ち、熊本本店の味を受け継いできました。名物スープは脂っこさが少なく体に残りにくいため、食後に重さを感じにくく、何度でも食べたくなる味わいです。近年はターローメンが注目され、東南アジア系のスタッフが店を切り盛りしている姿も見られます。熊本の本店と比べても遜色ない味で、新宿という大都市にありながら長年続いていること自体が、その美味しさを証明しているといえるでしょう。

一方で歌舞伎町の雰囲気は時間帯で大きく変わります。昼間は区役所が近く安全で、ビジネスマンや買い物客でにぎわいます。夜は飲食街としてにぎわい、深夜から早朝にかけては最も危険な時間帯となり、客引きやトラブルが多発します。暴力団同士の喧嘩も早朝に起きやすいとされ、この時間帯は昔から特に注意が必要でした。現在でも終電を逃した人々やホスト通いの客が集まり、歌舞伎町らしい濃厚な人間模様を見せます。

ここ20年で歌舞伎町は大きく変貌しました。石原慎太郎の浄化政策や『新宿スワン』に描かれた世界は2000年代前半までで、今ではだいぶ整然とした印象になっています。それでも桂花ラーメンに足を運べば、昭和の匂いを残す「古き良き歌舞伎町」の一端に触れることができます。新宿という巨大都市の中で、歌舞伎町は常に変わり続けながらも雑多な文化と人間模様を抱え続けているのです。

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