金閣寺の隣に風を宿す ミニエコビレッジ「風の荘」とその時代背景
2000年代半ばは、日本で「環境共生住宅」や「エコビレッジ」といった言葉がにわかに脚光を浴びた時期であった。京都議定書の発効後、CO₂削減や持続可能な暮らしを求める声が高まり、住宅政策にもエコ技術の導入が重視され始めた。国土交通省は環境共生住宅の補助制度を整備し、地域ごとのモデル住宅や先進的な住まいの展示が増えていく。
そんな潮流の中で、建築家・渡邊公生氏(ケイ・ワタベ代表)は、京都・金閣寺のすぐ隣、約四百坪の土地に、三棟構成の「ミニエコビレッジ風の荘」を設計・施工した。もともとは西陣織の旦那衆の別荘だったその敷地は、100年を経た庭を重んじるオーナーの意向でマンション化を拒み続けていた。そこを舞台とし、バウビオロギー(建築生態学)の考えに基づき、住まう人・自然・地域が調和する空間を目指した。
風の荘が掲げた設計目標には、水の循環・削減、CO₂排出抑制、給湯エネルギーの四割削減、100年スケールの生態系維持、人間の恒常性(ホメオスタシス)を守る空間づくりなどが挙げられた。
設備面では、生活排水を生物濾過システムで再浄化し、トイレ・洗濯への再利用を図る。断熱・調湿性を高めるため壁・床に桐材を使い、木造パネル式の格子壁構造(リグノ工法)で風の通り道を確保。こうして、猛暑の夏をエアコンなしでしのぐ住まいも可能にしたという報告もある。住む人の体・心の健康を重視し、電磁波や化学物質への対策も講じている。
設計者と住民とのやり取りはこのプロジェクトの核心だった。渡邊氏は「住まいは人の充電器」として、まず住む人を中心に置き、地域・自然・社会とバランスを取る家づくりを訴えた。住民側からは、利便性や快適さより安心感、風通しや光の入り方を大事にしたいという声があったという。こうした対話を通じて、設計と暮らしが共同で形をなす現場になった。
京都市自身も「環境モデル都市」構想を持ち、伝統都市の風景と環境配慮を両立させる事例への注目が高かった。風の荘は、エコ建築技術だけでなく、観光都市京都の文脈や地域風土を意識した「現代の風景づくり」として、建築メディアや環境誌で紹介された。
このプロジェクトには、住民、設計者、地域や施工者との日常の会話があってこそ成立した。たとえば、「今日は風の流れが気持ちいいね」「壁の木肌が呼吸してる感じがする」「雨水タンクの水が澄んできた」「光の陰影が部屋を変えてくれる」といった言葉は、技術仕様では語れない暮らしの実感を映す。そうした言葉が、風の荘という建築を、人と自然をつなぐ場へと昇華させているのである。
No comments:
Post a Comment