Sunday, September 14, 2025

山田五十鈴 ― 昭和を貫いた舞台と銀幕の華

山田五十鈴 ― 昭和を貫いた舞台と銀幕の華

山田五十鈴(1917~2012)は、新派俳優の父と芸者の母を持ち、幼少期から芸事を叩き込まれた。十三歳で日活に入社すると、瞬く間に片岡千恵蔵や嵐寛寿郎の相手役に抜擢され、時代劇の銀幕を飾った。端正ながらも柔和な顔立ち、大きな瞳と涼しげな表情は、舞台上で遠くまで映える華やかさを持ち、少女的な愛らしさから妖艶な女役に至るまで幅広くこなせる資質となった。戦前には「浪華悲歌」「祇園の姉妹」で、愛に翻弄されながらも強さを秘めた女性像を体現し、時代を映す名演を残した。

戦後の映画界が娯楽性と社会性のはざまで揺れる中、「鶴八鶴次郎」で芸人の哀歓を演じ、芸人役における唯一無二の存在感を示した。やがて六〇年代以降は舞台に主軸を移し、「たぬき」などで芸人役に新たな命を吹き込んだ。彼女の演技は写実性と舞台的誇張を巧みに織り交ぜ、観客を深く揺さぶった。

同世代の原節子は清楚で西洋人形のような美貌を誇り、引退後の沈黙で神話化された。高峰秀子は愛らしさから庶民的な知性を備えた名女優へと転じ、「二十四の瞳」などで国民的人気を得た。それに対し山田五十鈴は、芸者や芸人といった生活感に根ざした役を得意とし、庶民の哀歓やしたたかさを描く点で独自の輝きを放った。

代表作には「浪華悲歌」「祇園の姉妹」「鶴八鶴次郎」「たぬき」などがあり、戦前から戦後にかけて日本映画と演劇の両方で存在感を発揮した。舞台と銀幕の両面で長く第一線を歩み続けた山田五十鈴は、容姿と演技の魅力を併せ持つ昭和の象徴的女優であった。

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