平塚市のゴミ減量化とEMコンポストの課題・1995年7月
1990年代半ば、日本の都市部ではごみ処理問題が深刻化していました。高度経済成長期以降に増加した廃棄物の量は処理施設や最終処分場の能力を超え、特に首都圏では埋立地の逼迫が社会問題となっていました。さらに、バブル崩壊後の景気低迷によって公共投資が制限され、自治体は新しい焼却施設や処分場の建設に踏み切れない状況にありました。また、ダイオキシン問題が表面化し始めた時期でもあり、焼却依存からの脱却が求められていたのです。
こうした背景の中、平塚市では生ごみの資源化を目指し、EM(有用微生物群)を活用したコンポストの普及に取り組みました。市は家庭に容器を配布し、台所から出る生ごみを発酵させて堆肥にする仕組みを推奨しました。しかし、市民からは「臭いが出る」「手間がかかる」といった不満が噴出し、特に庭のない集合住宅の住民にとっては扱いにくいという声が強く上がりました。制度が想定していた「家庭単位での自家処理」は必ずしも生活実態に即していなかったのです。
農家側の評価も分かれました。コンポスト肥料は「化学肥料と比べると色づきや甘みが劣る」とする否定的意見がある一方で、「地力保持や土壌改良には役立つ」と評価する声もありました。結果として、品質と安定供給の点で商業的利用には至らず、受け入れ体制の整備が課題として残されました。
この取り組みは、廃棄物問題の解決を自治体、市民、農家がどう役割分担するかという試行錯誤の一例でした。当時は「容器包装リサイクル法」施行直後であり、家庭ごみの分別が始まりつつあった段階です。平塚市の事例は、制度の理念と市民生活の現実とのギャップを浮き彫りにし、後の家庭用生ごみ処理機の普及や地域循環型社会づくりへとつながる重要な実験的取り組みだったといえます。
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