Saturday, September 20, 2025

Huaweiと監視の疑惑 ― パプアニューギニアのデータセンターをめぐる論争(2019~2020年)

Huaweiと監視の疑惑 ― パプアニューギニアのデータセンターをめぐる論争(2019~2020年)

2019年から2020年にかけて、パプアニューギニア(PNG)で中国の通信機器大手Huaweiが建設した国家規模のデータセンターをめぐり、国際社会で大きな懸念が広がりました。このデータセンターは中国政府からの融資を受けて整備され、表向きには「デジタル基盤整備による経済発展支援」として進められたものですが、オーストラリアやアメリカをはじめとする西側諸国は、背後に潜む「監視とスパイ活動」のリスクを強く警告しました。

当時の時代背景としては、米中間の技術覇権争いが激化しており、特に5Gネットワークの整備をめぐってHuaweiを排除するかどうかが各国の安全保障政策の焦点になっていました。アメリカ政府はHuaweiが中国政府や人民解放軍と密接な関係にあり、同社の機器がバックドア(裏口)を通じてデータを不正に収集する可能性があると繰り返し主張しました。その一環として、オーストラリアは2018年の段階でHuaweiを自国の5G網から全面排除しており、近隣国であるPNGへの関心も高まっていました。

パプアニューギニアは地理的にオーストラリアに近く、太平洋の安全保障やシーレーン防衛にとって戦略的重要性を持つ地域です。そのため、同国の通信インフラが中国製のシステムで運用されることは、単なる技術的選択を超え、太平洋地域の情報安全保障に直結する問題とされました。さらに報道によれば、このデータセンターには設計段階から「深刻なセキュリティ脆弱性」が含まれていたとされ、外部からのアクセスや情報流出のリスクが現実的に存在することが指摘されました。

こうした懸念は、パプアニューギニアが中国からの融資に依存している現実とも絡み合い、「経済支援」と「安全保障リスク」の板挟みを象徴する事例となりました。2020年にはオーストラリア政府が資金を拠出してデータセンターの改修に乗り出す動きが報じられ、中国の影響力に対抗しようとする西側諸国の姿勢が明確になりました。

この事件は、発展途上国がインフラ整備のために中国の支援を受ける一方で、その背後に潜む安全保障リスクが国際問題化する典型例であり、米中対立が「通信とデータ」をめぐる新しい冷戦の様相を帯びていたことを示すものでした。

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