沈黙する坑道――佐渡鉱山の朝鮮人強制労働と記憶の断層（1940年代）

沈黙する坑道――佐渡鉱山の朝鮮人強制労働と記憶の断層（1940年代）

日本海に浮かぶ佐渡島。その中心に広がる佐渡鉱山は、かつて黄金に輝いた夢の舞台であり、同時に深い影を落とす記憶の地でもある。1940年代、太平洋戦争の只中で日本は深刻な労働力不足に直面し、朝鮮半島から多くの人々を「徴用」の名のもとに日本本土へと送り込んだ。佐渡鉱山にも約1500人の朝鮮人が動員され、酸素の乏しい地下坑道での採掘や運搬といった過酷な労働に従事させられた。

彼らの労働環境は劣悪を極め、保護具の不足、安全対策の欠如、長時間労働が日常であった。賃金は不当に低く、時には未払いのまま。逃亡防止のための監視体制が敷かれ、暴力的な管理も存在したという。事故や病気で命を落とす者も少なくなく、それらはほとんど記録に残されていない。その労働は、名目上の徴用であっても、実態としては明らかに強制を伴うものであった。

戦後、この過去はしばしば見過ごされてきたが、韓国では被害者やその遺族が証言を重ね、記憶の継承に取り組んできた。一方で日本政府は、徴用は当時の国内法に基づいていたとする立場を堅持してきた。2022年、佐渡鉱山が世界文化遺産の候補として推薦された際、この問題は再燃する。推薦書から「強制労働」の語が避けられたことで、韓国からは強い反発が起き、日韓の歴史認識の溝はさらに深まった。

佐渡鉱山における朝鮮人労働は、人権侵害の象徴であると同時に、記憶と政治の狭間で揺れる存在となっている。いまもなお、真実をどう伝えるか、歴史をいかに継承するかをめぐる議論が続く。沈黙した坑道は、私たちに語りかける。忘却の中に埋もれた声を、もう一度掘り起こすことはできるのかと。