夜の声、境界に咲いた灯――見世物芸能の残照(1979年)
香具師、大道芸人、流し、ストリップ、見世物小屋。かつて日本の街角には、制度の外側で人々を笑わせ、泣かせる芸能があった。昭和三〇年代から四〇年代、飲み屋街の片隅で流しが歌い、香具師が口上をあげ、ストリップ劇場には裸と台詞と拍手があった。それらは卑俗であると同時に、庶民の魂を掬う小さな灯火でもあった。
テレビが家庭に浸透し、芸能が放送と広告に吸収されていく中で、こうした"境界芸能"は次第に消えていった。だがその背後には、鍛え上げられた身体、語りの技、観客との濃密な交感があった。それは制度に守られぬ自由であり、過剰であり、ある種の誠実でもあった。
見世物芸能は、差別や貧困、漂泊の歴史とともにあったが、それでも人間を描き、人間を見つめていた。昭和の裏面にひそやかに咲いた灯。それが、夜の声、見世物の光だった。
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