Saturday, May 24, 2025

誰の裏庭に煙突を建てるか――福岡・浮羽三町 廃棄物処理をめぐる静かな攻防(2002年)

誰の裏庭に煙突を建てるか――福岡・浮羽三町 廃棄物処理をめぐる静かな攻防(2002年)

2002年、日本各地の自治体は、循環型社会形成推進基本法や改正廃棄物処理法の施行を受け、ごみ処理体制の再構築を迫られていた。なかでも福岡県の浮羽町、田主丸町、吉井町――この三町が構成する浮羽郡衛生施設組合は、日量23トン規模の廃棄物処理施設の建設を模索していた。

しかしその計画は、「どこに建てるか」で足踏みする。誰もがごみは出すが、誰もが煙突は背負いたくない。この「受け入れ先未定」という状態は、典型的なNIMBY(Not In My Back Yard)の問題を浮き彫りにする。当時、ダイオキシン規制や焼却炉周辺の健康リスクへの懸念が強まる中で、住民の理解と合意形成は至難の業だった。

さらに背景には、市町村合併の議論が各地で進む中、将来的な統合とインフラの持続性を見据えた慎重な判断もあった。焼却炉は単なる設備ではなく、地域の合意と記憶をともなう存在である。三町の取り組みは、効率と共感の間に揺れる地域行政の"良心"の証でもあった。

ごみとは、誰かの生活のかけらであり、見捨てられたものの行き先である。それをどこに運ぶのか、誰が引き受けるのか――浮羽の静かな攻防は、「環境インフラの民主主義」が始まった時代の縮図であった。

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